土星は太陽系の中でも特に印象的な天体で、その美しい環が最大の特徴です。
2025年3月24日、15年ぶりに土星の環が消える「土星の環の消失」現象が起こります。土星の環はとても薄いため、地球から見て土星を真横から見る位置になると、まるで環が消えてしまったかのように見えます。
しかし、この時期には地球から見て土星が太陽に近い位置にあるため、夜間は地平線の下に隠れ、観測が難しくなります。
また、5月7日と11月25日にも、土星の環が消失するタイミングがあります。5月7日は夜明け前の東の低い空に、11月25日は夜間に土星を観測できるので、これらの方が観測しやすいでしょう。
土星の環の特徴
土星の環は、氷や岩の小さな粒子でできています。これらの粒子の大きさは、砂粒ほどの小さなものから数メートルの大きさまでさまざまです。ほとんどが氷でできているため、太陽の光を反射して明るく輝き、望遠鏡で見ると非常に美しい姿をしています。
環は非常に薄く、全体の厚さはわずか数メートルから数十メートル程度ですが、その幅は約28万キロメートルもあり、広大な広がりを持っています。
また、土星の環は1つの大きな環ではなく、幾重にも分かれた層でできています。内側から順に、D環、C環、B環、A環、F環、G環、E環と呼ばれ、それぞれ少しずつ異なる 密度や粒子の分布を持っています。それぞれの環の間には隙間があり、特に大きなものは「カッシーニの間隙」として知られています。
土星の環の消失とは?
土星の環が消失するとは、いったいどういうことなのでしょうか。
「消失」と言っても消えてなくなる訳ではなく、実際は、「見えなくなる」「ほとんど見えなくなる」という見かけ上の現象です。
では、どのような仕組みで見えなくなるのか?土星の環が見えなくなる3つの条件をご紹介します。
A:環を真横から見る3月24日
土星は約26.7°傾いた状態で約29.5年かけて太陽の周りを一周しています。この軌道上で、地球と土星の位置関係が変化し、土星の環を「真横」から見る(土星から見て地球が赤道方向に来る)瞬間が訪れます。このとき、非常に薄い土星の環は真横から見るとほとんど見えなくなります。これが「環の消失」と呼ばれる現象で、2025年3月24日午前4時頃にこの仕組みで環が見えなくなります。
土星が太陽を一周する間に2度真横になるため、この現象は、公転周期29.5年の半分にあたる約15年に一度起こります。前回は2009年9月4日に起こりました。
3月24日の土星は合を過ぎたばかりで、土星が太陽の近くに見えるため、日中は明るく、夜間には地平線の下に沈んでしまうため観測は難しいでしょう。
また、11月25日頃にも環の傾きが1度以下に小さくなり、ほとんど見えなくなります。完全に見えなくなるわけではありませんが、観測する場合はこの時期が適しています。東京では、11月25日の午後7時頃に南の空の約50°の高さに見え、26日の午前1時頃まで観測可能です。天体望遠鏡で観測してみましょう。
B:太陽の光が環の真横から当たる5月7日
地球が土星の環の真横に来るのと同じく、太陽が土星の環の真横に来る(土星から見て太陽が赤道方向に来る)場合があります。この時、太陽の光が薄い環の真横から当たるため、環の上下の広い面に光が届かず、暗くなって見えなくなります。2025年5月7日にはこの仕組みで環が見えなくなります。
5月7日の土星は夜明け前の東の空で観測できます。東京では、午前3時前に土星が東の空に昇りますが、高度は低めです。日の出が4時半頃なので、観測できるのは1時間程度ですが、天体望遠鏡で観測してみましょう。
C:環の片面が影になる3月24日〜5月7日
土星の環の変化
2025年から2026年にかけて、地球から見た土星の環の変化を示す模式図を作成しました。実際には観測が難しい時期もありますが、土星が見える場合にどのように環が変化するかを表しています。
1月1日から、日に日に環の傾きが小さくなり、3月24日には地球が環を真横から見る位置に来るため、環が見えなくなります。その後、環の傾きは再び大きくなりますが、地球からは太陽の光が当たらない面が見えるため、影になりほとんど見えなくなります。
5月7日には、太陽が環を真横から照らす位置に来るため、再び環が見えなくなります。その後、地球と太陽が環の同じ面側に位置するため、太陽の光が環に当たり、再び見えるようになります。
環の傾きは次第に大きくなりますが、7月14日に土星が留を迎え逆行を始めると、再び環の傾きが小さくなります。そして、11月25日には環の傾きが最小となり、ほとんど見えなくなります。
環が無い土星を見よう
15年ぶりに見られる「環が無い土星」を天体望遠鏡で観測してみませんか?
土星を観察する際は、倍率100倍程度の望遠鏡が適しています。150倍以上であれば、土星や環の縞模様まで見えるようになりますが、今回は環が無い土星の観測なので、70〜100倍で十分です。できれば、口径の大きな赤道儀式の天体望遠鏡を使うとより良い観測ができます。
普段から環のある土星を観察しておくと、今回の変化がより際立ち、感動も大きくなるでしょう。次に環が消えるのは2038年から2039年にかけてとなります。この貴重な機会をぜひお見逃しなく。
5月7日午前4時の星空
東京では、5月7日午前2時半頃に東の空に土星が昇り、少しずつ高度を上げていきます。午前4時頃には約20°の高さに達し、観測しやすくなりますが、日の出が近づくため観測できる時間は限られます。高度が低いため、東の空が開けた場所を選んで観測しましょう。
このとき、「明けの明星」とも呼ばれる金星も近くに昇っており、マイナス4.5等級の明るい金星と1.2等級の土星が並ぶ美しい光景を楽しむことができます。
11月25日午後9時の星空
東京では、11月25日午後7時には南の空約50°の高さに明るい土星(1.0等級)が昇っています。この頃、月齢5前後の細い月が昇っていますが、8時半頃には沈み、その後数時間が観測のチャンスとなります。南の空にあった土星は西へ移りながら次第に高度を下げ、26日午前1時頃には地平線に沈んでしまいます。